その頃、乃亜の友人・夏もまた、失意の日々を送っていた。ある日、今は親が営む町工場の工員で、中学時代の友人・勇夫と再会する。彼は、昔と違い、男くささを漂わせていた。それは普段、自分の周囲にいる大学仲間たちからは感じ得ることのないものだった。
夏はその再会をきっかけに何度か彼と会い、機械油の匂いがほんのりと残る彼の手に惹かれていることに気づく。今は亡き父の趣味は機械いじりだった。休みの日には、殆どの時間を修繕などに勤しみ、いつもその手からは油の匂いがしていた。そんな父の背中を眺めているのが、何よりも好きだった。勇夫の背中はそんな父の姿と被って見えた。
元の夫が起こした傷害事件。その日から美奈子は世間から好奇の視線を浴び、身内からの蔑みの視線さえ、常に受け止めてきた。その恐怖から逃れようと、実家へ逃げるように戻る彼女。背中に感じる視線は、美奈子にとって最も苦手な感覚だった。家事代行で担当する老人・亘の視線に、それが何かを知りたいと思うようになる…。