検診が終わると、亀吉が思い切ってある頼み事をした。実は、亀吉の妻は一年以上も大きな町の病院に入院中で、すっかり夫婦生活がご無沙汰になっていた。風俗へ行くことも考えたが、狭い田舎町では職業柄それも憚られる。かと言って、独り寝は淋しい。そこで、浄心に一度でいいから慰めてくれないかと言うのだ。亀吉の真面目で不器用な性格を知っている浄心は、口外しないことを条件に彼の願いを聞き入れる。「私が、木村先生の苦しみを吸い取って差し上げます」
事後。何度も頭を下げて帰って行く亀吉を見送った浄心は、本堂でお経をあげる。
さて、所変わって田舎道をひとりの青年・伊納辰也が歩いている。そこへ一台の車が通り過ぎる。運転しているのは、近くの未亡人・米倉杏子だ。彼女は、辰也が親指を立てているのを認めると、車を停めて乗るように指示した。話をすると、彼は今流行りのヒッチハイク旅行をしていると言う。そこで、人を疑うことを知らない杏子は、苦労している彼を家に招き、食事と風呂を世話した。旺盛な食欲で飯を食べる辰也。そんな彼を見ているうち、杏子はムラムラしてをてしまい・・・久しぶりに女であることを想い出す。
激しいセックスの後、グッタリしていた杏子が目を覚ますと、そこには辰也の姿はなく室内が荒らされていた。
杏子の家から当座の生活費をゲットすることに成功した辰也(実は、彼は殺しとレイプは御法度が信条の泥棒)が、次に目をつけたのは満光寺だった。
満光寺。浄心が写経している。そこへ、尼寺の歴史を勉強している大学生を偽った辰也が、大学の教授が書いてくれたと言う身分を明かす為の保証書(勿論偽物)を持ってやって来た。俗世の人以上に疑うことを知らない浄心は、彼を快く迎え入れることに。こうして、満光寺に潜入した辰也は、研究と称して寺の中を物色しようとするのだが、世話好きな浄心は何かと面倒を見てくれたり、いい機会なので寺の生活を体験してみてはと、したくもない座禅までさせられる有り様。
そうこうしているうち、今度は浄心の妹で東京でOLをしている近藤かの子がやって来た。彼女は、たったひとりの肉親である姉に婚約者を紹介しにやって来たのだ。だが、浄心が紹介された坂口正和は、なんと浄心が出家する前に一度だけ恋に落ちた相手だった(当時、正和には妻がいてふたりの恋は実らず、それが原因で浄心は出家したのだ。今は、前妻とも別れている)。まさか、その男が妹と結婚するなんて・・・。浄心は、因縁の巡り合わせを呪った。
一方、辰也はチャンスとばかり寺のあちこちを物色し始めた。ところが、浄心の部屋の前に来た彼は、中から浄心の鳴咽を聞いてしまう。気になった彼は、浄心の部屋の中へ。すると、浄心は彼の胸に顔を埋め、正和との関係を彼に話しながら泣くのであった。「なんで私などにそんな話を・・・」戸惑う辰也に、「あなたは信じられる人だから・・・」と浄心は呟いた。その夜は、彼女を抱き寄せるだけに留める辰也であった。
翌日。かの子が買い物に出かけると、正和が浄心に近寄った。「こんなことになろうとは、俺も驚いているんだ」そして、正和は浄心を抱きしめる。「あの時は、君を不幸にしてしまった。今もそれを後悔している。あれから、君のことを忘れたことはなかった。今でも好きだ」正和の腕の中で、浄心は普通の女に戻っていた。いけないとは思いながらも、抗うことの出来ない感情に溺れていく浄心。
事後。浄心は「今のことは忘れて下さい。そして、これからは妹を裏切らないで下さい」と正和に言った。(その一部始終を辰也が覗き見ていた)
その日の午後、かの子たちが帰って行くと、辰也も金目の物を失敬して寺を出ようとした。ところが、それを浄心に見つかってしまう。慌てて逃げようとする辰也は、その時、後ろで浄心が倒れる音に気づく。駆け寄ってみると、彼女はすごい熱だった。いきがかり上、浄心の看病をすることになった辰也だが、亀吉が往診に来て注射を打ってくれるも、熱はなかなか下がらない。
深夜。辰也は、熱に浮かされた浄心に体中に経文を書いて欲しいと頼まれる。出家したのに〝女〟として男に抱かれてしまった体を清めたいと言うのだ。浄心の願いを聞き入れてやることになった辰也は、浄心の白い肌に筆で経文を書き綴る。しかし、浄心は益々苦しむばかり。見かねた辰也は、彼女を抱きしめ癒そうとした。「私が浄心様の苦しみを吸い取って差し上げます」辰也の腕の中で、何度も昇天する浄心であった・・・。
翌朝。浄心が目覚めると辰也の姿はなく、その代わり置き手紙と杏子の家から盗んだ金がおいてあった。そこには、浄心との出会いの中で改心することを決心したので、警察に出頭し人生をやり直すと書かれていた。それを読んだ浄心の顔に、笑みが戻る。