或る墓地の前。手を合わせる喪服姿の金髪美女。その横顔は寂しげで左手の薬指には結婚指輪が光っている。彼女の名前は、ナターシャ・稲山。半年前に夫を半年前に事故で亡くし二十五歳の若さで未亡人となっていた。現在は、亡夫の姉である風見利恵と小さな会社を経営している隆司の夫婦の家に居候中なのだが、まだ日本語も片言の上に、夫の葬儀代で出来た借金を隆司に肩代わりして貰っている事もあり、すっかり利恵には厄介者のお荷物扱いで生活費と家賃代わりにメイド代わりにこき使われる始末。何とか職を探し早く借金を返済して自立し様とするのだが、相談出来る知り合いも居らず八方塞、その上、これ見よがしに利恵と隆司の夜の夫婦生活の声を毎晩のごとく聞かされ、その熟れ切った肉体を持て余し一人寝の寂しさに耐えてる。
そんな或る日、ナターシャは買い物帰りの商店街の電柱に張られている一枚の求人広告のビラに目が留まる。日本語は読めないナターシャだが唯一英語で書かれた店の名前らしい『スイート・ウィドウ』と『フロア・レディ』の文字に惹かれて貼紙を持ち帰り利恵と隆司に相談し貼紙の内容を説明して貰う。そこには、『スイート・ウィドウ』というクラブが『フロア・レディ』を急募していて特に『未亡人優遇』と書かれていた。早く借金を返済し自分が自立し安心させる事が一番と感じたナターシャは不安を感じながらも面接に行く事を決める。
薄暗い『スイート・ウイドウ』の店内。妖しい男女の喘ぎが充満している。カウンター席でサラリーマン風の男〈以下、東山琢己)に愛撫され妖しく身悶える瀬川可南子の姿がある。
翌日、意を決した様に受話器を取り電話するナターシャ。電話に出たママらしい女性の優しい対応に少し不安が薄らぐ。
そして、面接の当日、緊張気味に『スイート・ウイドウ』を尋ねるナターシャを優しい微笑で出迎えたのは可南子。片言で懸命に借金のことや一人寝の寂しさに痺く体を持て余している事など、つい可南子の優しい微笑に、自分の身の上を話し『私でも出来ますか?」と不安げに告げるナターシャに「その気持ち分かるわ私も、未亡人なのよ‥この店は、未亡人がお客様のお酒の相手をしてあげるのがウリなのアメリカでもそうだと思うけど、日本も未亡人という言葉の響きに弱いのよ分かるでしょう?」と優しく告げる可南子。ナターシャが悪戯っぽく微笑み領く。
その夜、不安と緊張で高鳴る動悸を抑えてナターシャが可南子の用意したセクシーな衣装に身を包んで店に出ている。やがて、ドアが開き客が入って来る。可南子に紹介され坂井悠一と名乗る中年客の隣に座り緊張しながら必死に笑顔を作り接客するナターシャ。坂井は、その金髪とナターシャの熟れ切った肉体を包み込んだ衣装にすっかり鼻の下を伸ばす。やがて可南子と坂井の間で意味ありげな目配せが交わされる。
閉店後の店内。可南子がナターシャに「実は今から行って欲しい場所があるんだけどいいかしら?」と耳打ちする。「今から何処にですか?」といぶかしそうに聞き返すナターシャに「今夜、坂井さんて言うお客様が居たでしょう彼がナターシャの事とても気に入ってどうしても裏メニューを頼みたいって言うのよ」と可南子が告げる。「裏メニューウ」と不安と妖しい好奇心の浮かんだ眼差しで見返すナターシャに「そう、うちに常連客が付いてくれているのはそれがあるからなのあなたお金が必要なんでしょうそれに旦那さんが亡くなってからずっと痺く身体を持て余しているんでしよう」とナターシャの微かに浮かんだ妖しい好奇心を見透かした様に妖しく微笑み囁く。
ラブ・ホテルの一室。緊張気味にベッドに座り身を硬くしているナターシャー。その身体に妖しく指を這わせる坂井。喘ぎ抑えていた淫らな痺きを解き放っていくナターシャー。
翌日、素直に罪悪感とそれを忘れて坂井との情事に感じてしまった事を可南子に告白するナターシャ。「いいじやないそれでいつまでも亡くなった最愛の人を心の中で思い続けることも大事だけど何時までもそれに縛られることなんかないんじゃないだって私達、生きているんだものあなたが自分の為に背負った借金を返して幸せになれる事をきっと亡くなったご主人も望んでいるはずよ、それに私もつらい仕事なら勧めないけど」と最後に悪戯っぽく微笑んで告げる可南子に恥ずかしそうにナターシャが微笑み返した。
『スイート・ウイドウ』の店内でナターシャーが東山と、ラブ・ホテルの一室で可南子が坂井と、裏メニュー・サービスで楽しみ妖しく淫らな仕事に励んでいる。やがて、借金の返済の上に生活費と家賃まで入れてくれるナターシャに利恵の態度が優しく豹変し始めるのだが何か思い悩んでいる。さりげなく聞き出そうとするナターシャに利恵が羞恥に顔を伏せて「旦那が、最近ぜんぜん私を抱いてくれないの」と寂しく愚痴り、更に「あの人ナターシャの事が好きなのよ」と思わず告げる。驚き、否定するナターシャに「お願い助けてあの人まで私から奪わないでお願いよ」と哀願する様な眼差しを向ける利恵。ナターシャーの心の中に何かを決断する様な感情が湧き上がった。
そんな或る日、「義兄さんいろいろありがとうございました…?」と借金の残額の入った封筒を差し出す。「こ、これは受け取れないよ、受け取ったら…?ナターシャは家から出て行くんだろう?」と封筒を押し戻す隆司。しかし「ひとつは義兄さんの為、ひとつは義姉さんの為、義兄さんを義姉さんから奪えない…?最後は、私が自由になる為お金だけじゃなくて本当に優しくしてくれた義兄さんに御礼がしたかった、私に出来るのはこれだけいやですか?」と妖しく潤んだ瞳で呟くナターシャに首を振る事しか出来ない隆司。
ラブ・ホテルの一室。ベッドの上で激しく求め合いひとつになっていくナターシャと隆司。身悶え喘ぐ二人の表情は何処か満たされ、何かから開放されていく様に見える。
翌朝。利恵の家のリビングのテーブルの上に一枚置手紙が残されている。
『いつまでもお幸せに私はもう一人で生きていけそうですナターシャ』その手紙を手にする利恵にナターシャの声が聞こえた。亡夫の墓前に手を合わせるナターシャ。ゆっくりと開いた瞳は何かを決心している様に見える。
或る寺の山門。歩き来るナターシャー、その表情に翳りはない。