その彼らが、座敷で酒食を楽しみ、大いに盛り上がっているところにいきなり家が開いて、和服をたすきに結んだ後妻の澄江が軽機関銃を持って入ってくる。驚き慌てる一同に向かって、乱射する澄江。
馬鹿げた夢想から現実に戻る澄江。彼女が手に持っていたのは、数年前に撮られた写真だ。その後、左門の伝記を書くためにフリーライターの澄江が雇われ、老年の孤独に長く苦しんできた左門は、自分のしがない一生を熱心に聞いてくれる彼女に惹きつけられる。左門は、改めて平々凡々たる自分の人生に気付かされ、人生の最後を澄江とともに送ることを念願する。
蔵の中で、過去の記念品などをチェックしていた澄江を、左門は拝み倒すようにして性交渉を持った。澄江もまた二十代で結婚し、夫の手酷い裏切りにあって離婚、自活するためにフリーライターを始めたが、時折襲ってくる虚しさに絶望することがあった。
左門は必死の思いで澄江に求婚し、澄江も先の見えた人生を捨てるように、左門と結婚してもいいかと思う。しかし、二人の結婚は、一族みんなの猛烈な反対にあった。澄江の狙いは財産に違いないと踏んだ兄弟夫婦は、父親の結婚を絶対認めないと主張し、もし強行するなら親子の緑を切り、なおかつ澄江に遺産放棄の証文を書くように求めた。
ここで踏み切ったのが左門で、生きてきた人生のすべてを賭けて息子夫婦を説得し、もし自分が死んでも澄江が困らないように、遺産の半分は確実に彼女に残るように手続きした。澄江も左門の残りの人生に尽くすつもりで、すべてを整理し、左門と結婚した。周囲に祝福されないながらも、二人は当初幸せだったのである。
ところが、結婚したら左門が変わった。すでに充分勃起しなくなっていた彼は、バイアグラなどを買い求める一方で、嫉妬の鬼となった。なかでも自分の息子たちと澄江の仲を疑い、精神的、肉体的に暴力を振るうようになる。
同居している民生夫婦に白い眼で見られながら、左門には行動を縛られ、暴力で痛め付けられる。この家を出て行こうにも、左門の目が光っているうえ、結婚する時に整理して得たお金も、すべて左門に握られていた。まるで身動きならない状況に置かれた澄江は、裏山で一人「ふざけんじゃねー!」と悲しく叫ぶのが精一杯だった。
そんな中、陰ながらひとり澄江に優しく慰めてくれたのが、一言も口をきかない、この家の使用人、青木黄次だった。少しは慰められる澄江だったが、それを見た左門は、黄次の見ている前でフェラチオさせる。そして興奮した左門は、そのままセックスしようとするが、思わず澄江は突き飛ばし、左門はタンスの角に頭をぶつけて気絶した。
特に外傷はないので、澄江は左門を布団に寝せるが、左門はそのまま眠り続け、起きてこない。大騒ぎになって、医者も呼ばれるが、原因不明。昏睡状態というほどではなく、普通の睡眠がただ続いているだけのことだった。
この機会に、家を逃げ出したい澄江だったが、左門が頭をぶつけた現場を見ている黄次が、澄江を監視し、肉体を求めた。あれほど優しく自分を奪ってくれるように見えた黄次も、澄江の弱みを知ると、彼女を離さなかった。また、澄江にしても、いつ左門が目を覚ますか分からないので、もし目を覚ました時に、頭部に打撲を与えたのが澄江であることを訴えたら困るという心配もあった。
左門の眠ったままの状態が続くと、同居している長男の民生が、澄江に追ってきた。黄次の目が光っていることもあって、澄江は応じなかったが、民生の妻の文子が気配を察して騒いだ。遺産を早めに処分するためだと、苦しい言い訳をする民生。
倒れた当初顔を出しただけの卓一が、すっかり憔悴しきって一人現われる。妻の由子と離婚したという卓一は、澄江の置かれた状祝にも深く同情し、二人は愛し合う。左門と澄江が結婚する時、遺産問題でクレームを付けたのは由子の言うがままだったと、澄江に謝罪する卓一。
澄江は卓一と二人で、この家を出ていく決心をする。黄次がなんと言おうと(第一彼は喋れるのか?)左門は死んだわけでも、重傷を負ったわけでもないのだ。ただ、頭の打ち所が悪くて、眠ったまま、目を覚まさないだけのこと。重罪になるはずがない。まして、左門は使用人に見せ付けながら、セックスに及ぼうとしたのだ。
澄江が卓一と、家を出て行こうとした時、卓一の妻の由子がやってくる。まだ正式離婚していなかったのだ。由子にまったく頭の上がらない卓一に、すっかり嫌気がさす澄江。裏山に「なんなんだ、この家のバカどもは!」という悲しい叫びが響く。
左門が眠っている脇で、遺産をめぐつて言い合いが始まるが、その時、大きなあくびをしながら、左門が目を覚ます。眠っていた間、意思表示はまったくできないものの、耳で聞くものはすべて分かっていたと言う左門は、もう一度澄江とやり直せないか懇願する。
首を振る澄江の気持ちを受け入れ、約束した遺産の半分を渡し、澄江を見送る。悪いのは、自分の息子たち夫婦なのだ。死ぬまで、アイツ等をいじめてやると決意する左門。それに黄次のヤツもこき使ってやらなければ。
左門にとって澄江は、思いがけないプレゼントだった。左門はすっかり眠っている間に、達観したようである。