光子は、典型的なおばさんとしてOLたちに嫌われていた。実際、彼女は口うるさく、ケチで、しかも使用中の男子トイレにも平気で入って行けるような性格だった。「年取っても、あんな風にだけはゼッタイならない! だから、いつまでも独身なのよ」和也と社内恋愛中の石田恵利香も、よくそうやって悪口を言った。しかし、セックスの後、全裸で部屋の中を平気で歩き回る恵利香を見て、和也は「こいつも普通のおばさんになるな」と思うのであった。
日曜日。和也は、街で光子を見かける。ユニフォーム姿しか知らない彼は、平服の光子を見てギャップを覚える。光子は、どうやら買い物をしているようであった。高級ブティックの並ぶ通り、ショウウィンドウを見て歩く。やがて、彼女は一軒のジュエリー・ショップに入ると、暫くして小さな袋を嬉しそうに提げて出て来た。その一瞬に垣間見た女性としての素顔を見た和也は、!となった。
数日後。会社で経理の金が無くなるという事件が発生した。恵利香は、それを光子のせいだと疑った。最近、光子の様子がおかしく、服装や化粧品が変わったことに彼女は気づいていたのだ。しかもこの前、高級ブランドの店で服を買うところを見かけたと言う。和也は、いたずらに人を疑ってはダメだと恵利香を諭したが、恵利香は聞く耳を持たない。彼女は、それを上司に報告。上司は、それをビル管理会社にそれとなく伝えた。
光子は清掃員を辞めた。無実を訴えたが、信用第一の管理会社としては辞めて欲しかったからだ。光子が辞めて、恵利香はせいせいした顔をしていた。しかし、和也は気になって仕方がない。そこで、彼は光子のアパートの近くへ行ってみる。そこで、光子に会った。
光子は、心配して来てくれた和也を部屋に通して、酒と手料理をふるまってくれた。会社で見る一面と、また違った家庭的な一面を見て、和也の気持ちは光子に傾いていく。やがて、光子はポツリポツリと自分の身の上話をし始めた。
それは20年前、光子には愛していながら結婚出来なかったひとりの男性がいた。鈴木誠だ。別れる時、彼女は鈴木と「20年後、もう一度、同じ場所・同じ時刻に会おう」と約束した。その日が、もうすぐやって来る。そこで、彼女は鈴木と会う為にOLたちにケチと言われながらもコツコツと貯めた金で、宝石や服を買い揃えていたのだ。「女ひとりで生きていくのは大変なの。でも、彼に会う時は、精一杯のおしゃれがしたい。だからと言って、その為に人様のお金に手を出すようなことはしてないわ」和也は、光子の言葉を信じた。
夜。光子は、和也にお願いをした。「彼に会ったら、抱いて貰うつもり。でも、もう何年も男の人に抱いて貰ってないから、少し怖いの。お願い、私に女を想い出させて」和也は、光子を抱いた。
一方、鈴木誠も光子との約束を忘れてはいなかった。出世の為の結婚であったが、妻・史子ともうまくやっている。50歳を越えたとは言え、セックスも周期的にしていた。光子との約束の前日、鈴木は史子を抱いた。女の勘が働いたのか、珍しく史子から求めて来たからだ。
そして、約束の日。悩んだ末に和服を選んだ光子は、和也に見送られ、鈴木に会いに行った。
約束の場所。鈴木が立っている。しかし、光子はやって来ない。「やっぱり、憶えていなかったか……」 呟いて、家路につく鈴木。
その頃、光子は木島周平と言う男にレイプされていた。お洒落した和服を乱され、乱暴に突き立てられる光子。イッた後、木島は吐き捨てるように言った。「なんだ、おばさんだったか」
光子から電話を受けた和也が現場に駆けつける。光子は、和也の胸に顔を埋め泣いた。五十とは思えない少女のような光子を、和也はギュッと抱きしめた。「また、きっと会えますよ」
それから数ヵ月後、光子と和也は結婚した。若い和也は、光子の尻に敷かれているが、ふたりは幸せだ。