激しく絡み合う男と女。九条隆介と菊江、二人は夫婦である。
吐息交じりの二人の会話で、現在の状況が説明される。
戦局はいよいよ終りを迎えそうであること・・・。
「自分にもしものことがあれば、この家を捨てて逃げろ」隆介はそう言うが菊江は反論。
「そんな事は出来ません。私はあなたの、あなただけのものですから・・・。」二人はまた愛を確かめ合うのだった。
しかし、隆介はその日を最後に二度と戻ってこなかった。
数か月が過ぎる。
夫の無事を信じ、ひたすらその帰りを待ち続ける菊江。男を知った菊江の体は、時に熱く火照る事もあった。そんな時は、菊江は淫らな指で、自分を慰めるのであった。
ある日、菊江の家に一人の若い女性が逃げてくる。女は傷つき、立っているのもやっとの状態。一目で訳ありだと知れた。双葉ゆりと名乗ったその女は、どう見てもその身なり、口調などから、どこかの遊女のように思えた。女は菊江に近付こうとし一歩足を踏み出すが、そのまま地面に倒れてしまった。菊江は一人ずまいの寂しさもあり、ゆりを看病してやった。
二人に友情が芽生えてくるのに、さほど時間はかからなかった。立場は違えど二人とも優しさと慰めを必要としていたからだ。
都心では毎日のように空襲があり、何人もの人達が死んでいた。だが、ここの田舎にはまだ食べ物があった。
二人で山のものを採り、たべる。温泉に入り、他愛もないお喋りに興じる。束の間の楽しい日々。
だがそれも長くは続かなかった。
四谷文三と言う男が菊江の家にやってきた。「あなたの夫、九条隆介は死んだ。」
「嘘よ!」驚愕の表情を浮かべる菊江。
「最後に、妻を頼むと・・・」私にこの写真を託したのです。
四谷の手が菊江の肩を覆い接吻をしようとする。隆介を思い、半信半疑ながらもこれが隆介の遺言なら、この男を受け入れるしかない。必死に耐える菊江であった。
「待ちな!」そこに現れたのはゆりだった。「そんな奴の言う事なんか信じちゃ駄目だよ!」
四谷は最初から九条家の財産目当てで、隆介を戦地に向かせたのだ。隆介が死ねばなにもかもこの俺のものになる。金と女を手にいれるためには手段を選ばない卑劣な男四谷。
ゆりもまた、この男に身を売られ、悲惨な日々を過ごしてきたのだ。そして、やっとの思いで逃げ、たどり着いたのがこの地菊江の所だったのだ。
命の恩人菊江を必死にかばおうと、ゆりは精一杯の抵抗をする。しかし、女二人では、小国日本が欧米に喧嘩を売るようなものだった。
あっけなく女二人と財産を手にいれた四谷は、意の向くまま二人を陵辱し始める。
菊江とゆりは精神的にも、肉体的にも四谷の支配下に置かれ、苦痛の日々を過ごした。
数か月が経ったある日。
菊江は四谷の肉棒をぶち込まれそうになり、すべてを覚悟した時断末魔の声を聞いた。死んだ筈の隆介が日本刀を手に四谷を刺していたのだった。
「あなた・・・。」菊江の瞳に映る隆介の姿が、涙で参んでいた。