ところが、その言葉を聞いた途端、紀子はゾーッとしてしまった。何故なら、紀子は恭介に内緒でその通帳の金を使い込んでいたのだから。目的は、パチンコ。最初は、小遣いの中でやっていたのだったが、大きな沈みでそれが家計費に波及。やがて、その穴を埋めようとして通帳の金に手を出してしまったのである。しかも、パチンコで勝って穴を埋めようとするから、益々深みに落ちて行くばかり。いつかこの日が来ることを知りながら、どうすることも出来ないでいた。そのうえ、紀子は恭介に結婚した当初に『パチンコはやらない宣言』をしていたのだ、これがバレてしまったら。恭介はどんなに激怒することか!
そんなこととは、露ほども知らない恭介は果てた後、「明日、会社の帰りにパンフレット、持って帰って来るからな」なんてウキウキウッキー。「あ~、どーしようー」の紀子は、冷汗もの…。
翌日、紀子は主婦仲間の涼子を探して、パチンコ屋へと行った。涼子もまた、パチンコにハマったひとり。紀子が行きつけのパチンコ屋へ行くと、果たして涼子が台とにらめっこしていた。涼子は、10年前、たまたまノーパンでパチンコを打った時、10年に1度あるかないかと言われる幻の20連チャンをしたことがあって、以来パチンコ屋へは験を担いでノーパンで来る習性がある。今日もノーパンの涼子が、リーチのかかった台に向かってスカートを上げると、なんと大当たりが出てしまう。『しかし、それは夢の20連チヤンではなかった』
勝負の後、紀子は近くの公園で涼子に相談をもちかける。すると、涼子はいとも簡単に売春を勧めた。驚く紀子に涼しげな顔をして、「あたしが沈んだ時はそれやって少し取り返してんの、知らなかったの?」そして、自分の体験談を話し始める。
まず、店内をグルッと一周見回り、ハコを重ねている男を探す。その隣が空いていればラッキー。すぐさまそこに座って、次は短いスカートから太股をチラリと見せたりしてモーションをかけるのだ。相手が、興味を示したらこっちのもの。あとは、キーホールダーでもなんでも目印になるものを、その男のハコの上に置いて席を立つだけだ。最近、涼子がした相手はドカピーの勇次。半パチプロの勇次は「宵越しの金は持たねぇ」、なんて粋な江戸っ子だからきっぷがいい。涼子に、その日の儲けを全部くれるほどだ。だから、涼子の体も確変フィーバーであとニ回サービスしたりして。
涼子から話を聞いた紀子は、恭介との生活を守る為にそれを決心。パチンコ屋へ突入するのであった。ハコを積んでる男を探していると、なんと勇次がいるではないか。しかも、今日もハコを何段も重ねている。涼子に言われた通りに勇次を誘った紀子は、その太い腕に抱かれることに。
事後、お金は結構貰ったものの、やはりそんなものでは貯金の穴は埋らない。そこで、これをもう少し大きな金額にしようと、紀子はパチンコに勝負を賭けるのだったが…。
その夜、恭介は沢山のパンフレットを抱えて戻って来た。ハワイにしようか、それとも贅沢をしてアメリカ、カナダ。はたまたヨーロッパ!なんて、夢が弾むウキウキウッキーだ。しかし、紀子は気が気ではない。いつ、「通帳を見せろ」と言い出すか…。 その晩、紀子は遂に通帳を恭介に見られてしまう。その上、それがパチンコによって空けられた穴であることを知ると、恭介の怒りは頂点に。「俺だって、好きな酒や煙草を我慢して切り詰めて、ここまでためたのに。お前ってヤツは!」普段おとなしい人間がキレると始末が悪い。恭介は、そのままプイッと外へ出て行ってしまうのだった。
外へ出た恭介は、酒をかっくらうだけかっくらいへべれけになって夜道をさまよっていた。フラフラでもう歩けない。と彼が転びそうになった瞬間、恭介に体を支える女の影が…。
恭介が意識を取り戻したのは、見も知らない女の部屋だった。真子と名乗るその女は、かいがいしく恭介の世話をやいてくれた。そんな女に一目惚れしまった恭介は、酔った勢いで真子を抱く。恭介の下でよがりまくる真子。セックスにはあんまり自信のない恭介だったが、真子の表情を見て俄然調子をあげる。ガンガンにペニスを突き立てると、何度も果てた。
しかし、4度目の絶頂を迎えようとした時、部屋のドアを蹴破ってヤクザ風の男が乱入して来たのだ!驚く恭介を前に真子は、「この男が無理屋理…」どうやら真子の情夫らしいその男・健志は、恭介を引っつかむと物凄い形相で彼を脅迫し始めた。「よくも俺の女に手を出してくれたな。このオトシマエは、どうつけてくれるんだ!」さっきの勢いはどこへやら、ムスコ同様すっかり縮みあがってしまった恭介は、百万円を支払うことを約束させられてしまう。もしはらえなかったら、その時は東京湾に浮かぶのを覚悟しろとのこと。
翌日の土曜日、会社に行くと言って家出た恭介は、例の通帳から残りのお金をおろすと、競馬に競輪、宝クジ…と一獲千金を狙う。だが、どれも失敗。もうダメだ。ガックリと肩を落とした彼は、最後の望みを賭けてパチンコにトライすること。しかし、ついてない時はついていないもので、銀玉は、飲まれていくばかり。
その上、健志に店内でバッタリ。「金は用意出来たんだろうな」、とまたまた威されてしまう。どんどん萎縮する恭介を見て面白がる健志は、これ見よがしに積まれた自分のハコに足を乗せて高笑い。ところが調子に乗った健志がこんな提案をしてきた。
「もし、俺にパチンコで勝ったら、百万円はチヤラにしてやるよ。その代わり、お前が負けたら、金は倍だ」
その挑戦を受けることにした恭介は、家へ飛んで帰った。そして、紀子にその試合に出てくれるよう頼むのであった。さんざん叱られてパチンコをやめる決意をしていた紀子の心は動くが、元はと言えば自分が撒いた種だ。紀子は健志の勝負を受けて立つことになる。
翌日、パチンコ屋では紀子と健志の壮絶なバトルが繰り広げられた。ルールは、1万円6時間一本勝負。一度座った台を絶対に変えてはならない、というもの。恭介や涼子、幹夫や勇次らが見守る中、勝負は白熱する。しかし、健志が確変を引いてしまったあたりから、紀子は調子を崩し始めてしまう。銀玉は飲まれていくばかり。制限時間もそろそろ終わりに近づいてきている。その時、久々に紀子の台にリーチがかかった。固唾を飲んで台を見つめる紀子。と、その耳に涼子の声が響いた。「パンツを脱ぐのよ」 涼子のアドバイスを受けてパンティを脱いだ紀子は、スロットに向けてスカートを捲りあげた。すると、回転していたスロットが止まり、なんと大当り!確変に入った紀子は、確変の終了した健志にグングンを迫っていく。そしそ、遂に健志を抜くことに成功。しかも連チヤンは続き、涼子が10年前に出したという幻の20連チャンが出て、勝負はつけられたのであった。
夜、紀子は恭介の腕の中で幸せに酔いしれていた。旅行はこれで暫くおあずけだが、パチンコはやめないでもいいとのこと。ふたりは、空が白むまで愛を確かめあうのであった。
一方、勝負に負けた健志は、真子から折檻を受けていた。「また、あたしに黙って勝手なことしてっ。せっかくの美人局計画が水の泡じゃないの!」