雄太は客なんかこないからと場所代も取らず、近くで食堂を営む哲男と飲む時には葵を同席させたりもしていた。人付き合いが苦手な葵にとっては楽園のような場所とも言えた。
だが、町は災害と風評被害による打撃でゴーストタウンと化していた。災害支援の労働者だった六児は、作業もあらかた終わり、街を離れる前に馴染みの葵を抱きに来た。
ある日、力也と蝶子夫婦が宿泊に来た。葵は二人からただならぬ気配を感じる。彼らも生きる気力を失い心中するつもりで、二人が初めて出会った雄太の住む町を訪れたのだ。最後の契りをと体を重ね、翌朝覚悟を決めた夫婦は手を取り合い、波打ち際に足を進める。
朝食の準備を済ませた雄太は、葵の読みが正しかった事を悟り、海岸へ向かう。そして、二人がいよいよというその瞬間に間に合った。蝶子は泣き崩れた。その後、雄太が話を聞いてやると、二人はやり直すことを決めて民宿を後にした。
雄太が町を離れず民宿を続けているのは、風評被害と災害に、政治家一族に入り婿となった兄の現が深く関わっていた…。