しかし、世間はそれを許さなかった。ある日、ふたりのことが教育委員会などで問題になり、追いつめられた恵子は弘明との駆け落ちを考える。「一緒に逃げよう」その目は、鬼気迫っていた。案の定、それを見た途端、弘明はビビッた。「マ、マジかよ?じょ、冗談だろ?」そして、彼はそこから逃げ出した。残された恵子は、絶望する……。
それから、数日後。休職した恵子は、ひとりあてのない旅に出た。それは、死出の旅だったのかもしれない。いつの間にか、山の断崖絶壁に佇んでいた恵子。想い出されるのは、今も弘明のことだ。涙が溢れ、その場にうずくまる。とその時、彼女を何者かが助けた。近くにある尼寺で、駆け込み寺としても知られる大成山愛徳院の女主人・浄蓮だ。浄蓮は、恵子の体を支えると、彼女を愛徳院へと連れ帰った。
浄蓮の世話になり、しばらく愛徳院に身を寄せることになった恵子。浄蓮は、彼女に何も尋ねなかったが、きっと彼女の心中を察してはいたに違いない。やがて、恵子の気持ちが落ち着くと、修行することを勧めた。座禅、読経、写経……恵子の心が清々しく澄んでいく。
ところが、幾日か経つと、肉体の中の悪魔が蠢き出した。寝室。恵子は、弘明とのことを想い出して、自慰に耽った。指がアソコをまさぐる。とそこへ、浄蓮が入って来ると、恵子を厳しく戒めた。彼女を裸にし、その背中を禅杖で打った。「ここへ来たのも何かの縁。俗世で犯した過ちを繰り返さぬよう、肉体の中の悪魔を追い出すのじゃ!」厳しい戒めが済むと、浄蓮は優しく恵子の体を抱きしめた。浄蓮の愛に包まれた恵子は、自分の未熟さを侘びると、修行に専念することを誓う。
それから、恵子は浄蓮の下、修行に励んだ。浄蓮を信心し、彼女の為になんでもした。時には、マッサージも。浄蓮の肌に直接触れることは、恵子にとってありがいことだった。だが、信仰と肉欲は時に紙一重。すべすべとした肌を擦っているうち、ふと恵子は妙な感覚に襲われてくる。「いけない!浄蓮様に対して、なんて不純なことを!」恵子は、マッサージを終えると、自らを戒めた。しかし、彼女は知らなかった。その様子を覗き見た浄蓮が不敵な笑みを浮かべていたことを……。
数日後。愛徳院に客がやって来た。麓の町に暮らすOL・木村綾音だ。かつて、不良少女だった綾音。少年院に入れられた彼女は、そこで慰問に訪れた浄蓮と知り合い、更生するきっかけを得た。出所後、愛徳院で修行し、今は町の役場で職員として働いている。
その夜、愛徳院ではささやかな宴が催された。浄蓮と綾音、懐かしい話に花が咲く。いつしか時が経つのを忘れ、綾音は愛徳院で一泊することになった。ところが夜も更けた頃、恵子は何やら怪しげな声で目を覚ます。足音を忍ばせて浄蓮の部屋を覗くと、なんと、浄蓮と綾音が女同士で愛し合っていたのだ。シックスナインに貝合わせ。極彩色のエクスタシーの中、浄蓮は叫ぶ。「あぁ、極楽浄土が見ゆる。釈尊様が微笑んでおられる!」
実は、愛徳院は駆け込み寺であると同時に、レズビアンの魔窟でもあったのだ。それを知り、ショックを受ける恵子。思わず音を立てて、浄蓮に見つかってしまった彼女は、浄蓮に羽交い絞めにされる。ニヤリと顔を歪ませる浄蓮。「さぁ、お前にも極楽浄土を見せてやろう」
浄蓮は、恵子を胸に抱きながら、自分の過去を話し始めた――。
かつて、OLをしていた浄蓮は、会社の上司・梶原高文と不倫関係に陥っていた。しかし、ふたりの関係が深くなればなるほど、浄蓮の愛は歪んでいった。「彼を奥さんのもとに帰したくない」そう思いつめた彼女は、ある日、鬼になった。梶原と愛し合った後、彼を監禁したのだ。
その後、彼女は流れ流れて愛徳院の先の庵主・浄鏡に拾われ、彼女の下で修行を積み、崇高な愛に目覚めたと言う。浄鏡との交わりの中で、極楽浄土を見、悟りを開いたのだと。「女を狂わす魔羅の恐ろしさ。私は、それをよく知っている。早く、それを忘れるのじゃ。そして、目覚めるのじゃ。女人同士の愛の崇高さに」
浄蓮に抱かれる恵子。股間の観音菩薩を、細い指が愛撫する。やがて、絶頂に達しようとした時、恵子も極楽浄土が見えた気持ちになった……。
それから数ヵ月後。浄蓮の推薦を得て、再び教壇に立っている恵子。その神々しいまでの姿に、弘明はムラムラと劣情を覚えるが、もはや恵子は彼を相手にしなかった。
週末。恵子は、愛徳院を訪れる。彼女は、週末ごとに座禅を組みに来ているのだ。そして夜には、浄蓮と極楽浄土を味わっているのであった。