その朝、不機嫌の種はもう一つあった。母親がまた強引に見合いの段取りをしたのだ。留守電には、いつもの母親の哀れっぽい声が入っていた。
見合いに行こうと街を歩いていて、洋子はハイヒールのかかとを折ってしまう。近くの靴屋に赴き、修理を頼む。靴屋の主人は丁寧な物腰の身なりのよい男で、店もこぢんまりとはしているが、趣味の良い店だった。
洋子は主人に勧められるまま、靴を試してみる。修理を終えると主人も色々と靴を勧め、二人の間に会話が弾む。しかし洋子は、男の視線が自分の脚に注がれていることには気づかなかった。
不機嫌が少し収まったせいか、食事の後、散歩した公園では、見合いの相手とは和やかに話すことが出来た。一つには、男の方から「自分はまだ結婚する気はない」と告げられてしまったこともある。お互いに「お見合いばばあ」の犠牲ですよ、男は笑った。
数日後洋子は帰宅すると、大森がいる。いつものように洋子を抱く大森。酔っている大森は妙に洋子に絡む。「知ってるよ、結婚するんだろ?なんだか・・・花嫁の父の気分だ」洋子は決心する。「鍵を置いて出ていって。二度とこないで下さい。」
深夜バーで酔う洋子。彼女はそこで靴屋の主人と再会する。彼の名は真瀬といった。
静か真瀬の隠された情熱は、自分の店と、そこに訪れる女の脚にあった。靴屋に来る女たちは、自分の選んだ靴が似合うかどうかに熱心で、真瀬の目の前でためらいなく脚を開く。真瀬は日々その脚を眺めることにこの上ない幸せを感じていた。真瀬はこれは、と言う脚の持ち主には、オーダーメイドの靴を勧めていた。
真瀬は自分の住居兼工房へ洋子を案内し、そこで、彼女の脚の型どりが行われる。洋子は何故か心を開いていく。真瀬の指が洋子には愛撫そのもに感じられた。
洋子は毎晩のように真瀬の店を訪れるようになった。二人は様々な愛の形を試し燃えていく。