その日は、阪神出版の雑誌の出版の打ち上げ。二次会はカラオケBOXへと盛り上っていった。その宴の真っ最中、酔っ払った貴司が伸江の耳元に、「ここ知ってるか?以前はソープランドやったとこやねんぞ」と言った。
今、大阪のソープは新風営法以後、壊滅的な打撃を受け、もう一~二軒しか残っていない。
「この店には、関西一と言われた超過激テクニックを持った、伝説のソープ嬢ミーコさんがいたんだ。凄かったで、彼女は。確か、この部屋が彼女の部屋だったと…」
そんなことをしらない若い男女が、毎夜カラオケでバカ騒ぎを繰り返すこの部屋で、つい数年前までは濃密な男と女の秘め事が行われていたとは…。伸江には計り知れないその性技の数々のイメージが、伸江の頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消えてくる。
その夜、貴司に抱かれても、伸江はどこか冷め続けていた。ミーコの性技に喜び、あえぎ、歓喜している貴司の姿が何度もオーバーラップしてくるのだ。
今まであまりみせたことのない攻撃的なSEXをやりだした。どちらかというと受け身的なSEXが多かった伸江の突然の変身に貴司は大喜びし、そして果てた。その瞬間、伸江は思った。「ミーコさんのことを追ってみよう。ひょっとしたら、それで何か書けるかもしれない」と。
次の日から伸江の、ミーコ追跡が始まった。ソープ関係者から聞くと、「あの店にいったと聞いたけど…」と色んな店の名が浮かんでくる。ひとつひとつ伸江は訪ね歩いた。大盛況のノーパン喫茶、ティーバックお好み焼屋、顔射ファッション・マッサージ。SM倶楽部等々。初めて見る、そこで行われている男たちのギラギラした欲望の魂のプレイにも驚きだったが、そこで出会った女たちが皆んなミーコのことを誉めちぎり、「アタシの師匠みたいなものよ」ということの方にもっと驚いた。
ついに伸江はミーコを探しあてた。新世界のすぐ側、飛田新地という、旧赤線地区にいたのである。飛田は今でも公然と売春が行われていて、街の風景といい、昭和三十年代のまま時代が止まっているかのような錯覚に陥る街だった。
初めて出会ったミーコは、伸江とそう歳が変わらないスラッとした美人であった。とてもじゃないが伝説のソープ嬢には見えなかった。
何故あなたはここにいるのかと聞いた。「ウチは大阪の女やから。大阪でしか生きていかれへんし、大阪の男を幸せにしてやりたいねん」と答えた。伸江は何となく感動してしまった。
そこへミーコに客が付いた。「もしよかったら、そこの押し入れの中で覗いていき。ウチの全てを見せたるわ」
押し入れから覗く伸江の前、濃厚なミーコのプレイが始まった。言葉でしぐさで、そして身体全体で、男を喜ばせ、夢中にさせていく。その素晴らしさ…。興奮した伸江は、自然と自分の局部に指がいき、そのプレイを覗きながらのオナニーを始めてしまった。めくるめく快感、こんなオナニーは初めてだった。そしてついに、三人揃って果ててしまう。
ミーコのことを書いた伸江のノンフィクションが賞を受けた。 貴司とのベットの中。一戦終わった後、貴司はおそるおそる伸江に聞いた。「お前、すっかり有名人になってしもて…。やっぱり、東京に行っちまうのか…」伸江はニッコリ笑って言った。「アタシは大阪を出ていかない。ここで仕事をして、この街からアタシの読者を元気にしてあげるの」
安心した貴司は、嬉しそうに再度、伸江に絡んでいった。そのSEXは、信頼しえた者同志の、美しく、かつ躍動にみちたSEXだった。