ある日、マンションの隣室に中年夫婦が越して来た。息子もひとり立ちし、今は夫婦二人で穏やかに暮らしているのだという。優しい笑顔の夫婦を見て「自分もいつかはこうなれたら良いな」と思っていた。その日の深夜、ハルコがトイレに入ると、隣の夫婦の激しい喘ぎ声が聞こえてきた。思わず耳を澄ますハルコ。初めて聴く他人のセックスの音。しかも自分たちとは全く違う激しい声。「あんなセックスがあるなんて」その日は胸がザワザワしてなかなか寝付けなかった。次の日の朝、ぼんやりしている彼女の様子を航平は不思議に思うが、ハルコは昨日の出来事を話すことができない。出がけに隣の奥さんに会うが、昨日の声が嘘のように穏やかな笑顔を浮かべていた。
ハルコは週一回、タイ語教室に通っている。元々ハルコ自身はタイには興味が無かったが、タイ旅行に行った後すっかりタイの虜になった元上司の山本優子(39)に誘われ、何となく通い始め、優子が早々に飽きて辞めてしまった後も律儀に毎週通い続けている。講師の佐藤義則(38)がハルコに、優子はもう辞めてしまったのかと尋ねた。優子はタイ語に飽きたらしいと答えると、佐藤は何か言いたそうな顔をしたが、ハルコはそれに気付かない。レッスンが終わり、帰り一緒になった佐藤がハルコに近づいた。「近所に美味しいタイ料理屋できたんですけど、どうですかね?」「さあ、私タイ料理好きじゃないんです」「そうなんですか・・」「そうなんですよ」佐藤はハルコを食事に誘いたかったのだが、彼女はそれに全く気付いてなかった。