館主の犬塚はそんな彼を暖かく見守り、いつか後継者にしたいと考えていた。犬塚は糖尿病の合併症で失明する恐れがあると言われ、不安な日々を送っていた。身寄りのない彼は、まだこのことを誰にも知らせていなかった。
福山は常連客の環が気になっていた。環は若い頃から犬塚へ恋心を抱いていたが、犬塚はウスウス感じながらも素知らぬふりをしていた。環は結局別の男と結婚したが、その後別れた。福山は今環がでも犬塚に気があると感じ、ふたりを結びつけようと考えていた。
ある日、一人の女性が映画館へ来た。彼女、ひとみは朝一番から最終回までずっと映画を観ていた。福山はひとみをどこかで見たような気がしていた。翌日もひとみはシリウス座で終日映画を観た。
福山は、ひとみが今上映作品出演している中西アヤメだと気づく。以前映画の現場で出会ったこともあり、思わず「中西さん」と声を掛けてしまう。驚くひとみは逃げるように出ていった…。